三月十日。
唄いに行く当日だというのに、午前から気分優れず。部屋での練習も、ギターを弾けば弾くほど、何かちがうんじゃないかという気持ちが沸き起こってしまい、仕方なく、また布団を伸ばして、寝てしまった。
夢をみた。
夢のなかでも、自分の四畳半に居て、
何故だか置いてある位置の違うターンテーブルになんの違和感も持たずに、夢のなかでも棚からレコードを選んで、くるくる廻るのをみつめいた。
友達のYくんが遊びに来てくれていた。ボブ・ディランのようなもじゃもじゃ頭で痩せっぽちのYくんは、夢のなかでもやっぱりギターを爪弾いていて、棚に腰掛けながら僕と話していた。ジギースターダストのレコードや、MC5のレコード。これらは、僕らが知り合ったとき、夢中で話してたレコードの一部。
「昔はこういうのよく聴いてたけど、いま聴かなくなったなぁ」
と、彼が言うので、
「パンクも好きだって、よく話したもんね。いまは、そしたら"風に吹かれて"みたいなの?」
「そうそう、弾き語りモノとか。まこっちゃんはどういうの?」
「俺もやっぱり、気づいたら静かなのばかり選んでるかなー。最近ね、"空に星があるように"とか、好きなんだ。虚無感漂うけど、とっても綺麗なんだよ」
「ふーん」
そんな話をしてる最中に、眼が覚めた。不思議だった。なんで、彼の夢をみたのかなーと、思ったけれど、
きっと、励ましてくれたんだな、という気持ちが直ぐに、湧いてきた。
彼のライブを下北や、池袋で観たことがあった。音楽話をしてるととっても楽しく思えたひとりなので、ライブは誘われる度に行き、唄ってる彼の姿を観れて、嬉しかったし、いつか「せーの」と、一緒に歌を合わせられたら楽しいだろうなぁとぼんやり思ってたりも、した。
いつのまにか連絡も取り合わなくなり、いまどうしてるかも、わからない。最近は彼の事も思い出すときすら少なくなっていたのだけれど、夢に出てきてくれたのは、きっと意味があるんだろうなと思えた。
とても気分が良くなったし、「知らねぇよ、そんなの」と笑いながら言われそうだけれど、
たっちゃん、夢の中で励ましてくれてありがとう、と、直に伝えたいなぁと、思った。
なんで、自分は歌を唄いたいのかな、と自問していたけれど。自分の思った気持ちや好きな事をことばにしたいこと、それから、Yくんや、いろんな人たちとまた会えたらいいなと、想うからだった。
きっとYくんも、今でも何処かで唄ってると思う。こちらも唄ってれば、いつかきっとまた、会えるよね。